公安学校の日記

恋人は公安刑事が大好きです。

24時間、東雲と一緒 1話

主人公の名前は青山結衣です。

 

~6時30分~

大好きな人の家にお泊まりした翌朝。

私は、いつもよりちょっと早めに目を覚ます。

だって、彼においしい朝食を食べてほしいから。

(愛情いっぱいの朝食を…)

(大好きな、歩さんのために……)

結衣

「う…ん……」

スマホに手をのばし、アラームを止める。

時刻を確認して、私はひとりほくそ笑んだ。

(よし、まだスヌーズ2回目)

(これなら、ゆっくりサプライズ朝食を作れるよね!)

(それで、あとから起きてきた歩さんに…)

 

東雲歩

『ふわぁ…おはよ』

『…なに、これ。キミが作ったの?』

『へぇ、朝から『和定食』…悪くないじゃん』

『でも、オレとしては、まずは別のものを食べたいんだけど』

『何って?…決まってるじゃん』

『朝いちばんの「ごちそう」といえば…』

『キミの…』

 

結衣

「キミの…ふふふ……」

「ふふ……」

「…むにゃ…」

東雲歩

「……」

結衣

「……すぅ…すぅ……」

東雲歩

「……バカ」

 

というわけで1時間後ーー

結衣

「あああああっ!」

「教官…っ」

「じゃなくて、歩さん…っ」

東雲歩

「うるさい。朝から」

(あ…)

結衣

「なんで朝食ができてるんですか!?」

東雲歩

「時間だし」

「いつまで経っても起きてこないし」

(うぅ)

東雲歩

「それより洗ってきたら、顔」

「よだれついてるけど」

結衣

「…っ、そういうのはそっと教えてください!」

(バカバカ、私のバカーー!)

(こんな1日のはじまり、サイアクすぎるんですけどーっ)

 

東雲歩

「それじゃ、どうぞ」

結衣

「…いただきます」

箸を手に取った私は、改めてテーブルの上に目を向けた。

炊きたてホヤホヤの白米と、ワカメの味噌汁。

小松菜のおひたし、玉子焼き、極めつけは「いかにも!」な焼き鮭だ。

(こういうの、私が作るはずだったのに)

(なんで歩さんが…!)

悔しさを噛みしめながら、きゅうりの浅漬けに箸をつける。

(うぅ、漬け物まで美味しい)

(何から何まで…ううっ…)

東雲歩

「…なに、その恨めしそうな顔」

「かっぱだって、もう少しマシな顔して食べると思うんだけど」

結衣

「かっぱは、キュウリが好きだからマシな顔するだけです!」

「ていうか、かっぱの顔なんて見たことないですけど!」

東雲歩

「…ぷっ」

(ひどっ!今の、笑うところじゃないのに)

抗議しかけた言葉を、私はギリギリのところで飲み込んだ。

(…落ちつけ、私)

(いったん冷静になろう)

よくよく考えてみれば、まだキュウリの浅漬けをつまんだだけだ。

(他のおかずは、大したことがないかも)

(よし、まずは玉子焼きから…)

結衣

「……っ」

(次!ワカメの味噌汁!)

結衣

「……く…っ」

(や、焼き鮭は…)

結衣

「……ううう……っ」

(小松菜のおひたし…っ)

結衣

「!!!」

(最後、白米を…)

結衣

「……」

「………」

「…………

「あああああっ」

東雲歩

「…えっ、なに?」

結衣

「おいしい…おいしすぎます!」

東雲歩

「……」

結衣

「ごはんはツヤツヤ」

「味噌汁も玉子焼きも出汁がしっかりきいているし」

東雲歩

「……」

結衣

「小松菜も焼き魚も文句のつけようがありません!」

「完敗…青山結衣、完敗です!」

東雲歩

「……当然」

「作ったの、オレだし」

(うぅ、そのとおり…)

東雲歩

「ま、でも…」

「『ツヤツヤごはん』を就寝前にセットしたのはキミだし」

「味噌汁とだし巻き玉子の『出汁』も、キミが用意したものだし」

(あ…!)

東雲歩

「だから、いいんじゃない?」

「半分は、キミが『頑張った』ってことで」

涼しげな顔つきで、歩さんは浅漬けを口に運ぶ。

けれども、その言葉は、私の心を十分熱くするものでーー

(歩さん…)

結衣

「好きです、歩さん!大好き…っ」

東雲歩

「ふわぁぁ」

(ええっ、ここであくび!?)

東雲歩

「やば、眠…」

結衣

「早起きするからですよ!」

「時間ぎりぎりまで寝てくれてもよかったのに」

(もっと具体的に言うと、私が朝ごはんを作り終わるまで…)

東雲歩

「仕方ないじゃん」

「うるさかったんだから…誰かさんのスマホが」

(…うん?)

東雲歩

「ガタガタガタガタずっと震えてるし」

「バイブ音、大きすぎるし」

(ま、まさか…)

東雲歩

「あり得ないんだけど」

「ふつうのアラーム音よりうるさいとか」

(あああっ!)

結衣

「すみません!ほんとすみません!」

東雲歩

「……」

結衣

「どうしても…どうしても今日は早起きしたくて」

「それで、ついバイブのレベルを最大の『5』に…」

東雲歩

「だったら1回で起きろ」

「3回も鳴らすな」

(うぅ、そこまでバレて…)

東雲歩

「じゃなかったら、諦めれば?」

「キミ、たいてい泊まった翌朝は早起きできないんだし」

結衣

「で、でも…」

東雲歩

「ま、オレもアレだけど」

「無理…させた気がしないでもない」

(………え?)

東雲歩

「ちょっと、その…」

「久しぶり…なのもあったけど…」

「いろいろしつこかった…のかもしれないし…」

(え、ええと…これは…)

リビングが、妙な気配に包まれる。

朝7時に感じるには、気恥ずかしすぎる濃厚なーー

結衣

「あの、なんていうか…」

「無理…ということはないというか…」

東雲歩

「……」

結衣

「わりと、その…満足です、的な?」

「幸せ、的な?…」

東雲歩

「……」

結衣

「だから、その…」

東雲歩

「分かった!もういいから!」

おかしな空気をなぎ払うかのように、歩さんは立ち上がった。

結衣

「どこ行くんですか?」

東雲歩

「摂取する。甘いの」

結衣

「えっ、キッスですか?」

東雲歩

「違う!」

「コーヒー!砂糖入りの!」

(あ、そっち…)

結衣

「え、ええと…じゃあ、私、入れてきます!」

東雲歩

「いらない。自分で…」

結衣

「そう言わずに!コーヒーくらい淹れさせてください」

「朝ごはんのお礼をしたいですし」

東雲歩

「…砂糖は…」

結衣

「2つですよね!喜んで!」

勢いよく立ち上がって、私はキッチンへと駆け込んだ。

大好きな人に、愛情たっぷりのコーヒーを飲んでもらうために。

 

to be continued