公安学校の日記

恋人は公安刑事が大好きです。

ラブストリーはカレから突然に♡ 東雲 2話

数日後…

鳴子

「結衣~、来週の金曜日あいてる?」

「流星群を観に行こうって話が出てるんだけど」

結衣

「ごめん。ちょっと勉強しないとマズクて…」

「この間の小テスト、クラスでビリだったし」

千葉

「でも、それって解答欄を間違えたせいだろ?」

結衣

「うっ…」

鳴子

「直そうって言ったって、根本的な部分だもんね」

結衣

「いじめないでよー…」

「とにかく、次こそ何とかしないとマズいっていうか…」

鳴子

「うーん、じゃあ仕方ないか」

「でも、気が変わったら参加しなよ。気分転換も大事だよ」

結衣

「うん、ありがとう」

(そっか、みんな流星群を観に行くんだ)

(いいなぁ、私も…)

結衣

「…ダメダメ」

(勉強するって決めたんだから)

(今度やらかしたら『悪魔』…じゃなくて教官になにを言われるか…)

東雲

「青山さん、いる?」

結衣

「はい!」

東雲

「16時までに資料揃えてオレのところに持ってきて」

スマホにメールしておいたから」

「じゃあ、よろしくね」

(あの笑顔…なんか嫌な予感が…)

(とりあえずメールを確認…)

結衣

「!?」

(なに、この膨大な数!台車がないと絶対運べないし!)

(そもそも16時までって…)

時刻を確認したとたん、めまいに襲われそうになる。

(と、とりあえず今すぐ書類倉庫に行こう、うん…)

 

資料を抱えられる分だけ抱えて、台車の上に乗せていく。

(次は昭和58年の事件…あった、これだ)

(これと、これと、このファイルと…)

(よし、これをいったん台車に乗せて…)

結衣

「うわっ」

棚の角を曲がったとたん、ドスンと誰かにぶつかる。

両手に抱えていたファイルが、勢いよく床に散らばった。

結衣

「す、すみません!」

石神

「いや…」

「それより資料が…」

結衣

「ああっ、いいです!自分で拾いますから!」

石神

「遠慮するな」

「それより中の資料が抜けていないかナンバリングを確認しろ」

結衣

「はいっ!」

慌てて資料を拾い集めると、番号がすべて揃っているか確認する。

石神

「…こっちはすべて揃っている」

「そっちはどうだ?」

結衣

「今、数えているんですが…」

(38…39…41…)

(やっぱり『40番』の資料が足りない…)

結衣

「すみません、1枚抜けています」

石神

「そっちを探せ。私はこちら側を探す」

結衣

「はい」

床にしゃがんで、棚の下までくまなく確認する。

すると、新聞記事のコピーが落ちていることに気が付いた。

(もしかして、これが…)

結衣

「…ありました、40番です」

(ん?この新聞記事…)

(『ペルセウス座流星群で大賑わい』…?)

石神

「どうした?」

結衣

「あ、その…」

「どうしてこの記事が、事件の資料なのかなって」

石神

「貸してみろ」

石神教官は記事を確認すると、わずかに目を細めた。

石神

「資料とされているのは流星群の記事じゃない」

「記事の下にある有料広告だ」

結衣

「有料って…この『父キトク帰レ』ですか?」

石神

「そうだ。ここに薄くマーカーを引いたあとがある」

結衣

「あ、ほんとだ…」

(そっか、そうだよね)

(『流星群』の記事が、公安絡みの事件と関係あるわけが…)

石神

「来週、観に行くのか?」

結衣

「えっ」

石神

「流星群だ。たしか金曜だったか」

「もしくは天体観測に興味があるのか?」

淡々とぶつけられた質問に、内心どきりとして顔をあげる。

結衣

「ど、どうしてですか」

石神

「人間の脳は、興味のある情報を最初にキャッチする」

「つまり、この資料を手にとったとき…」

「事件に関する情報を知りたければ、真っ先にマーカーに目がいくはずだ」

「だが、流星群の記事に目がいったということは」

「青山の今の関心がそこにあるということだ」

「違うか?」

(す、すごい…)

結衣

「えっと…ほぼ当たってます」

「流星群とか、けっこう好きで…」

石神

「……」

(なんか、妙にじーっと見られてるような…)

結衣

「え、えっと…」

「教官はお好きですか?星とか天体観測とかそういうの…」

気まずさを誤魔化すための質問。

なのに、なぜか石神教官は戸惑ったような顔付きになった。

石神

「今のは私に対する質問か?」

結衣

「えっ…もちろんそうですけど…」

石神

「私は特に興味はない」

「青山の後ろにいる男はわからないが」

(後ろ…?)

結衣

「!?」

(い、いつのまに…)

東雲

「…ねぇ、青山さん」

「今、16時18分なんだけど」

結衣

「す、すみません!今すぐ残りの資料を…っ」

東雲

「いいよ、今集めた分だけで」

教官は私を一睨みすると、石神さんにはにっこりと笑顔を向けた。

東雲

「すみません、石神さん」

「うちの補佐官が、お手数をおかけしたみたいで」

石神

「いや…」

東雲

「それと、さっき兵吾さんが探してましたよ。石神さんのこと」

石神

「…そうか」

東雲

「それは、オレたちは失礼しますんで」

「ほら、青山さん。台車を押して」

結衣

「はいっ」

 

重たい台車を押しながら、隣にいる教官をちらりと見上げる。

結衣

「あの…すみませんでした。間に合わなくて…」

東雲

「……」

結衣

「でも、その…」

「紙ベースの資料って結構多いんですね」

「もっとデータ化すればいいのに…」

東雲

「できないものもあるでしょ」

「古すぎて字がつぶれてるものとか」

「重要すぎてサーバにあげられないものとか」

結衣

「そ、そうですよね」

そこで話題が途切れて、再びガラガラと台車の音だけが響き渡る。

(これ…明らかに怒ってるよね)

(まぁ、16時に間に合わなかったから怒られて当然なんだけど…)

結衣

「あの…」

東雲

プラネタリウムにでも誘うつもりだった?」

結衣

「えっ?」

東雲

「石神さんのこと」

「さっき『星が好きだ』って答えてたら」

結衣

「まさか!誘いませんよ」

東雲

「じゃあ、なにあの質問」

「『星は好きですか?』なんて…」

結衣

「あれは…」

<選択してください>

C:興味があっただけ

結衣

「興味があっただけです」

「石神教官…っていうか男の人って星に興味があるかどうか」

東雲

「ふーん…『男の人』ね」

「『オレ』じゃなくて」

結衣

「そ、それは、その…」

東雲

「……」

「…ま、いいけど」

「ところで最近さ」

「原付スクーターを手に入れたんだけど」

「ピンクナンバーのやつ」

結衣

「はぁ…」

(意外だな、教官がスクーターに乗るなんて)

(ヘルメットで髪型が崩れるとか気にしそうだけど…)

東雲

「ま、そのうち遠出する予定」

「来週末…金曜日とか」

(来週金曜日…流星群の日だ)

結衣

「どこに行くんですか?」

東雲

「まだ決めてない」

「これから考えるとこ」

結衣

「そうですか…」

(遠出先で流星群を見るのかな)

(私は勉強しないと…だけど…)

東雲

「……」

 

そうこうしているうちに金曜日が訪れた。

鳴子

「やったー!テストおわったーっ!」

千葉

「今回のも難しかったよな」

鳴子

「うん、最近ので一番しんどかったかも」

千葉

「青山はどうだった?最下位脱出できそう?」

結衣

「うん、たぶん…」

(とりあえず全問解けたよね)

(いちおう手応えもあったし、今回は解答欄もちゃんと確認したし…)

男子訓練生

「おーい、今日流星群観に行くヤツ!」

「19時に駅前集合なー」

鳴子

「はーいっ!」

(そうだ、鳴子たちも流星群を観に行くんだっけ)

(いいな、楽しそうだな)

千葉

「……」

 

(流星群…寮のベランダから見えるかな)

(少しだけでも見えればいいけど…)

千葉

「青山!」

(…?)

千葉

「よかった、追いついて」

「流星群を観に行くのさ、青山も参加しない?」

結衣

「でも、断っちゃったし…」

千葉

「大丈夫だって、1人くらい増えても」

「それに、今回のテスト、頑張ったんだろ?」

「だったら1日くらい息抜きしてもいいんじゃない?」

(息抜き…か)

結衣

「わかった、考えてみる」

「集合は19時だったよね」

千葉

「ああ。もし大丈夫そうなら連絡して」

結衣

「了解!」

(1人で観るより皆で観たほうが楽しいよね)

(本当は教官と観たかったけど、今日は遠出するって言ってたし…)

結衣

「…よし!」

(せっかくだから、今回は皆と楽しんでこよう)

(ちゃんと着込んで、カイロも…って、これはやりすぎ?)

 

待ち合わせ時刻の20分前。

しっかりと準備を終えて、私は寮をあとにした。

結衣

「あ、千葉さんに連絡!」

(『参加するなら連絡して』って言ってたよね)

(この時間なら、メールより電話したほうが確実…)

東雲

「なにその格好」

「着込み過ぎでしょ」

(えっ?)

結衣

「教官!?」

「今日は遠出するんじゃ…」

東雲

「するよ、これから」

「そういうキミは?」

「他の男と星でも観に行くわけ?」

結衣

「えっ…」

(なんでそのことを…)

東雲

「そうだよね」

「キミは『優しくて優しくて、すごーく優しい男』がいいんだもんね」

結衣

「そ、それって…」

(たしか鳴子に占ってもらったときの…)

結衣

「あ、あれは言い訳っていうか」

「理想の人が『悪魔』とか言われたから、つい…」

東雲

「……」

結衣

「でも、その…」

(ああ、もうこうなったら…)

<選択してください>

B:教官も優しいです

結衣

「教官も優しいです!」

優しくて優しくて、すごーく優しいです!」

東雲

「……」

結衣

「普段は意地悪だけど、ときどき優しいし」

「本当は優しい人って知ってるし!」

東雲

「……」

結衣

「だから『好きなタイプ』の答えとして間違ってないっていうか」

「だから…」

東雲

「いいよ、もう」

「なんか…わかったから」

「で、本題に戻るけど」

「キミは他の男と流星群を観に行くわけ?」

結衣

「…いちおう」

東雲

「じゃあ、オレは?」

「誘われた覚えすらないんだけど」

結衣

「それは…っ」

「誘える雰囲気じゃなかったっていうか…」

「誘ったら怒られそうっていうか…嫌がられそうっていうか…」

東雲

「……」

結衣

「それに、誘って断られたらやっぱりヘコみますし」

東雲

「誘ってるのに気づかれないのもヘコむけどね」

結衣

「えっ?」

驚いて顔をあげると、ポンとヘルメットを渡された。

結衣

「これは…」

東雲

「遠出をさ」

「1人ですると思う?このオレが」

「アウトドア派でもないのに」

(えっ、じゃあ…)

結衣

「まさか、あの…」

「遠出がどうのこうのって言うのがお誘い…」

東雲

「……」

結衣

「分かりにくいですよ、そんなの!」

東雲

「だから今、ちゃんと言ってる」

「オレと来てって」

結衣

「……」

東雲

「オレはキミと星を見たい」

「ふたりで流星群を眺めながら…」

「くだらない願い事とかしたい」

「青山結衣と、そういうことをしたい」

(教官…)

東雲

「もっとわかりやすく言ったほうがいい?」

「バカなキミでも理解でき…」

結衣

「私も、教官と一緒がいいです!」

東雲

「!」

「…あっそう」

「じゃあ、来て」

結衣

「はいっ!」

先に歩き出した教官を、私は急いで追いかけた。

頬を撫でる夜風とは正反対の、ポカポカとあたたかい気持ちで。

 

to be continued