公安学校の日記

恋人は公安刑事が大好きです。

24時間、東雲と一緒 4話

~13時30分~

 

今日の「お昼休み」はちょっと特別だ。

なぜならーー

 

佐々木鳴子

「結衣ー!こっちこっち!」

結衣

「鳴子!もう来てたんだ?」

佐々木鳴子

「こっちは12時ぴったりに午前の研修が終わったからね」

「それより早く注文してきなよ」

結衣

「うん」

(鳴子とランチなんて、久しぶりだな)

結衣

「今日は何にしよう」

(A定食のエビフライもいいけど、B定食も捨てがたい…)

結衣

「うん?山菜キノコうどん?」

(キノコ…キノコかぁ…)

(ちょっとボリュームが足りないけど)

 

(キノコ…)

 

結衣

「すみませーん、『山菜キノコうどん』をひとつ、『鶏天』付きで」

おばさん

「はーい」

(そういえば、公安学校時代に社食で働いた事があったっけ)

(あのときは大変だったなぁ。お昼時はまさに「戦場」って感じで)

(でも、たまに歩さんが来てくれることが、ささやかな癒し…)

???

「すみません、『A定食』ひとつ、ごはん少なめで」

(この声…もしかしなくても…)

(やっぱり!)

結衣

「お久しぶりです!」

東雲歩

「…は?」

「会ったじゃん。1時間20分前に」

(うぅ、そうだった)

結衣

「じゃあ、ええと…」

「1時間ぶりです」

東雲歩

「……」

結衣

「ちなみに、あのあと黒澤さんは…」

東雲歩

「知らない。元気なんじゃない?」

「キミが報復していないなら」

(ちょっ…)

結衣

「しませんよ、私は!」

「先輩に対して、そんな恐れ多いこと…」

おばさん

「ハーイ、お待たせ。『山菜キノコうどん、鶏天付き』ね」

結衣

「ありがとうございます」

(うわ、キノコだけ山盛り…)

(っと…)

結衣

「ち、違います!他意はありません!」

「今日はちょっと『うどん』の気分だっただけで」

「別に『キノコ』目当てだったから、とか」

「『キノコ』って聞いて、東雲さんのことを思い出したわけでは…」

東雲歩

「うるさい」

「ていうか何も言ってないけど。オレ」

(しまった、つい余計なことを!)

(こういうときは…)

結衣

「え、ええと、それじゃ…」

「失礼します!」

東雲歩

「ちょっと、キミ…!」

(失敗した)

(しまった)

(ほんとは、もうちょっと歩さんとお喋りしたかったのに)

(せめて七味唐辛子をかけている間だけでも…)

佐々木鳴子

「おかえり。先に食べてたよ」

結衣

「ああ、うん…」

佐々木鳴子

「あれ、めずらしいじゃん。山菜うどんなんて…」

「って、それ、キノコ多すぎない?」

結衣

「やっぱりそう思うよね」

「これでも『山菜キノコうどん』のはずなんだけど」

(まさか、私の「キノコ愛」が社食のおばさんに伝わった?)

(いやいや、私が好きなのは別のキノコ…)

佐々木鳴子

「うわぁ、すご…」

「東雲さん、女の人たちに囲まれてる」

結衣

「えっ」

佐々木鳴子

「ほら、あそこ。人だかりになってるじゃん」

(ほんとだ。いつのまに!?)

佐々木鳴子

「へぇ、きれいどころのお姉さま方ばかりじゃん」

「あ、なんか貰ってる。差し入れかな」

(差し入れ!?)

佐々木鳴子

「あーしかも、アレはメモ付きだね。連絡先の」

「メアドとかLIDEのアカウントが書いてあるパターン」

(…お、落ちつけ)

(今日何度目かわからないけど、とりあえず落ちつこう、私!)

(そんなのもらっても、歩さんが連絡するはずないし)

ドスッ、ドスッ!

佐々木鳴子

「ちょ…なんでキノコに箸つき刺してるの!」

(そうだよ、いくらきれいなお姉さま方ばかりだからって)

(そんな浮気みたいなこと…)

ドスッ、ドスッ、ドス…ッ!

佐々木鳴子

「バカ、やめなって!うどんの汁、飛び散って…」

「っと…」

鳴子のスマホが、着信を伝えてきた。

佐々木鳴子

「…やば、先いくわ」

結衣

「どうかした?」

佐々木鳴子

「上司からの呼出し。ランチはまた今度ゆっくりね」

結衣

「わかった。お疲れ」

(鳴子、大変そうだな)

(さすが、配属早々、捜査に駆り出されただけのことはあるよね)

結衣

「はぁ…」

(私も頑張ろう)

(っていっても、もっぱら雑用ばかりだけど)

(午後はなんだっけ…まずは主要国の新聞チェックから…)

???

「すみません、ここ、空いていますか?」

結衣

「はい、どう…」

結衣

「!!!」

(な、なな何これ)

(藤咲瑞貴が、なんでここに!?)

藤咲瑞貴

「あれ、たしか…」

「以前、公安学校の寮でお会いしましたよね?」

結衣

「は、ははは、はいっ!」

(覚えてた…私のこと、覚えてくれてた!)

藤咲瑞貴

「学校はもう卒業したんですか?」

結衣

「はい、その…はいっ、まぁ…」

藤咲瑞貴

「じゃあ、今は警察庁に?」

結衣

「そ、そそ、そうです。その…津軽班に配属になって」

(どうしよう…夢じゃないよね)

(私、今、藤咲瑞貴とお喋りしているんだよね?)

藤咲瑞貴

「お昼はそれだけ?」

結衣

「えっ」

藤咲瑞貴

「うどんだけって、お腹が空きません?」

(空きます!めちゃくちゃ空きます!)

(…なんて言えない)

(歩さんならともかく、藤咲瑞貴の前でそんなこと…)

結衣

「あ、その…わりと平気かなぁ、なんて…」

藤咲瑞貴

「そうですか、小食なんですね」

結衣

「はい、まぁ…」

(よかったーー!今日は「山菜キノコうどん」にしておいて)

(でも私、なにか追加で頼んでいたような…)

そのときだった。

私の背後に、悪魔の気配を感じたのは。

東雲歩

「ご無沙汰しています。藤咲巡査部長」

(ぎゃっ!)

藤咲瑞貴

「東雲さん、先日はお世話になりました」

東雲歩

「いえ、こちらこそ。ところで…」

「青山さん、これ、忘れ物」

コトン、と置かれたのは、私が注文していたはずの…

(鶏天!!!)

東雲歩

「よかったよ、ちゃんと届けられて」

「うどんだけじゃ、物足りないものね」

結衣

「い、いえ、そんなことは…」

「ひゃっ」

歩さんの指先が、すぅっと首の裏を滑った。

まるで反論なんて許さないと言わんばかりに。

(ズルい!今の反則…っ)

(そこ、私が弱いって知ってるくせに)

東雲歩

「それじゃ、オレはこれで」

藤咲瑞貴

「おつかれさまです」

再びふたりきりになると、藤咲さんはにっこりと微笑んだ。

藤咲瑞貴

「おいしいですよね、鶏天」

結衣

「は、はい…」

頬が熱い。

でも、その理由が「嘘がバレたから」なのか。

それとも、昨日しつこくキスされた場所をなぞられたせいなのか。

今は、ちょっと判断がつきそうになかった。

to be continued