公安学校の日記

恋人は公安刑事が大好きです。

24時間、加賀と一緒 1話

~7時~

 

目を覚ますと、見慣れた天井が見えた。

(…加賀さんの部屋だ)

(昨日は加賀さんとお部屋デートして、そのままの流れで…)

でも、隣に加賀さんの姿はない。

シーツにはまだ少しぬくもりが残っていたけど、つい今しがたまでいた、という感じではなかった。

(どこに行ったんだろう…今日は休みだから早起きする必要ないはずだけど)

(…なんか、そういえば…)

サイドテーブルの水、ベッドの下に落ちた下着。

そして、二の腕につけられた痕…そのすべてに昨夜の激しさの名残を感じて、少し恥ずかしい。

(私も起きたほうがいいよね…でもまだちょっと身体がだるいな)

(加賀さん、次の日が休みだとほんと容赦なしだから…)

ドアが開く音がして、歯ブラシを咥えた加賀さんが顔を覗かせたのはそのときだ。

加賀兵吾

「おひたか」

結衣

「……!」

(かっ、加賀さんの歯磨き姿…!)

(えっ、待って、これってすごく貴重なんじゃ)

結衣

「写メ…!?いや、網膜に焼きつける…!?」

加賀兵吾

「……」

結衣

「す、すみません!ちょっと…あの」

寝起きでまだ完全に覚醒していない頭には、刺激が強すぎる。

結衣

「鼻血が出るかもしれないので…!」

加賀兵吾

「…変態が」

呆れたように歯ブラシを口から外して、加賀さんが吐き捨てるように言って部屋を出て行った。

(すごい誤解された…いや、でも今の発言は確かに変態っぽかった…)

(って納得している場合じゃない、私も起きなきゃ)

だるい身体に鞭打ち、ベッドから出る。

加賀さんが戻ってくる前に床に落ちている下着や福をかき集め、急いで身につけた。

(はあ、恥ずかしかった…加賀さん、下着が落ちてるの気づいたかな)

(いや、きっと気づいてるよね…そういうところ、ほんと鋭いからな…)

加賀兵吾

「おい」

結衣

「ひえっ」

加賀兵吾

「さっさと顔洗え」

結衣

「は、はい!洗面所お借りします…!」

考えが見透かされている気がして、逃げるように洗面所へ向かった。

 

顔を洗い、さっぱりした気分で寝室のドアを開ける。

すると、こちらに背を向けていた加賀さんが振り返った。

加賀兵吾

「ノックくらいしろ」

結衣

「……!」

(加賀さん、下着一枚…!)

(もしかして、着替え中だった!?)

結衣

「すっ、すみません!閉めます!」

加賀兵吾

「別にいい」

結衣

「でもっ…」

加賀兵吾

「今さらだろ」

慌てまくる私を一暼する加賀さんは、まったく動じる様子がない。

(かっ、加賀さんの下着姿を見てしまった…)

(いや、初めて見たってわけじゃないけど…明るいところでは見たことないかも…?)もちろん、抱かれる前はいつもそういう状況になっている…はずだ。

(でも加賀さんが下着になる頃には、私自身がもういっぱいいっぱいで…)

(よく考えたら、じっくり加賀さんのパン…じゃない、下着姿って見たことないな)

そのせいか、それとも不意打ちで見てしまったせいか、妙な罪悪感がある。

私の苦悩などどうでもよさそうに、加賀さんは着替えを終えた。

加賀兵吾

「何食う」

結衣

「え?」

加賀兵吾

「朝飯、外で食うぞ」

結衣

「簡単なものでよければ、何か作りますよ」

加賀兵吾

「今、冷蔵庫には飲み物と卵1個しか入ってねぇ」

結衣

「それは…さすがに…」

「…あっ!外で食べるなら、行きたいところがあるんですけど」

加賀兵吾

「……」

結衣

「わあ、めんどくさそう…」

「大丈夫ですから!遠くもないですし、面倒でもないです!」

加賀兵吾

「なら行くぞ」

さっさと行こうとする加賀さんを追いかけて、私も急いで部屋を出た。

 

加賀さんの家近くのカフェで飲み物とサンドイッチを買って、公園をのんびり歩く。

いつもの加賀さんは歩調が速いのに、今日はゆっくりと歩いてくれた。

結衣

「休みだからですかね…?加賀さん、今日は穏やかですね」

加賀兵吾

「今から地獄が見てぇなら、いつでもつき合ってやる」

結衣

「遠慮します…もうそれは普段から充分見てるので…」

「でも、今日は晴れてて気持ちいいですね」

加賀兵吾

「ああ…」

コーヒーを飲みながらいつもよりゆっくり歩く加賀さんは、寝起きのせいかどこか気がだるげだ。

途中のベンチに座り、買ってきたサンドイッチを広げる。

結衣

「加賀さんは照り焼きチキンたまごサンドですね」

「朝からお肉って、重くないですか?」

加賀兵吾

「肉食わねぇとやる気出ねぇだろうが」

結衣

「さすが、自他ともに認める肉食…」

私からサンドイッチを受け取る加賀さんの前髪が、朝の爽やかな風に揺れた。

加賀兵吾

「テメェの中身はなんだ?」

結衣

「スモークサーモンとクリームチーズです。美味しいですよ」

加賀兵吾

「魚か…」

(やっぱりお肉じゃないと不満なのかな)

自分のサンドイッチにかぶりつこうとした加賀さんが、何かに気づいたように動きを止める。

まるで親の仇を見るような顔をしたかと思うと、サンドイッチを開いて中からレタスを取り出した。

加賀兵吾

「貸せ」

結衣

「まさか…私のに入れるつもりですか!?」

加賀兵吾

「レタスの一枚や二枚、増えても問題ねぇだろ」

結衣

「なら、加賀さんが食べればいいんじゃ…」

加賀兵吾

「テメェ…」

(しまった…!野菜のことで反論してはいけなかった!)

大人しくサンドイッチを渡そうとする前に、加賀さんが私の口にレタスをねじ込む。

結衣

「もがっ…れ、レタスだけはやめてください…!」

加賀兵吾

「テメェは食えるんだろ」

結衣

「せめてサンドイッチに挟んでほしかった…」

「っていうか、サンドイッチのレタスすら許してもらえないんですか?」

加賀兵吾

「肉と卵が挟んでありゃそれでいい」

結衣

「かわいそうなレタス…」

もごもごとレタスだけを食べて味気ない気持ちになったあと、自分のサンドイッチを食べる。

加賀さんは隣で、レタス抜きになったサンドイッチにかぶりついていた。

(…加賀さんの食べ方って、豪快と言うか…美味しそうなんだよね)

(野菜を見つけると、途端にその "美味しそう" な雰囲気が半減するけど)

今日はこのあと、特に予定もない。

行き先も、何をするかもまったく決めていなかった。

(でも…たまにはこういう日があってもいいかも)

(今日は加賀さんと、何もせずのんびりしたいな)

朝の澄んだ空気に心地よさを感じながら、加賀さんの隣でサンドイッチを頬張った。

 

to be continued